⑤浄化と一人の狂人
≪だから「浄化」って何?≫
この言葉は多義的で、明確に「これだ!」と説明するのは難しいようにも思えます。清蘭のように、
二つの異なる行動をまとめて「浄化」と呼ぶこともあるのです。
例えば、最初に清蘭と遭遇した時、彼女の言う「浄化」とは、邪魔する者を排除することを指して
いました。「好戦的な地上人を浄化する」と言っているのです。
邪魔者の排除と言えば、永琳たちもその対象みたいです。「悪者」のレッテルを貼り、月の都まで誘い
出して処分しようということでしょう。
しかし、清蘭は同時に「もうすぐ地上は浄化される」という謎めいた言葉も発しています。「浄化」と
いうのは、地上を消滅させることをも意味するそうです。その役割は、キュリオシティが果たしている
ように見えます。
一連の過程を経て、地上は「浄化」される。これを踏まえると、「浄化」という言葉の意味は、以下の
二つに集約されます。
●地上のあらゆる物を消滅させること。
●月の都の新興勢力が計画を遂行する際の邪魔者を排除すること。
これほど狂った計画に巻き込まれるなど、理不尽にも程があります。しかし、狂気に陥った者は、
決まって、どうしてこんなことが出来るのか、と言いたくなるような悪事に平気で手を染めたりする
ものです。
「浄化」について、ある考察サイトでは、こんな途轍もない意見も出ました。
>侵略先の生物文化もろとも全て滅ぼして自分色に染め上げることだよ
プールで例えると水を抜いて綺麗に掃除して綺麗な水を流すような事
別の意味で言えば自分達にとって都合の良い世界を作る事
最悪な意味でいうと原住民皆殺しにして自分達が移住する
『紺珠伝』は、幻想郷が始まって以来の、最大級の危機と言えるかも知れません。もし、上記の考察が
本当なら、幻想郷が植民地化されるかも知れないのです。
≪じゃあ、「一人の狂人」って誰?≫
考察サイトから、賢明なる同志たちの金言を引用します。
>むしろ綿月は何やってんだよwwww
綿月にもとめられなかったのかその狂人は
なら間違いなく東方史上最強のキャラなんだが
>綿月も能力的にでなく権力的に止められない相手もいるしな
あと、月がおかしいと感じているのは地上に滞在して
地上に興味を持っているリンゴの主観というのがどうなんだろう…
一つ注目すべきは、同じ月の兎でありながら、清蘭と鈴瑚の態度には、かなり大きな差異が見出せると
いうことです。
清蘭は、残念ながら完全に「一人の狂人」の駒です。「一人の狂人」に心酔し、盲目的になっていると
いうことでしょう。積極的に地上の「浄化」に貢献しようとしています。
しかし、鈴瑚には躊躇いがあるようです。一歩引いて物事を見、月の都の豹変を含めて全体を俯瞰して
います。だから、「一人の狂人」に心酔することなく、その人物を狂人と認識することが出来た訳です。
航海長も、頭が良い娘は大好きです。
例えば、ある一つの体制を思い浮かべてみましょう。それが狂気に陥ってしまった場合を想定すると、
体制の中で暮らす人々は、大きく三つの部類に分かれることとなります。
1 熱狂するグループ。リーダーに心酔し、盲目的になり、どんな恐ろしいことでもやらかすように
なる。邪魔者は自ら積極的に排除する。清蘭はここ。
2 傍観するグループ。これが圧倒的に多く、世の中の変化などどうでも良いと考える。しかし、
彼らもまた体制に従っており、リーダーの命令には逆らわない。
3 懐疑するグループ。圧倒的に少なく、非常に頭の切れる者だったりする。リーダーおよび体制の
狂気に敏感で、その暴走を止めようと画策したり、逃げ出したりする。鈴瑚はここ。
航海長が最も好きなタイプ。
要は、現在の月の都の住人は、上の三つのどれかに属しているということです。月の都を覆い尽くそう
とする狂気の中で、皆がそれぞれの思いを胸に蠢いているのです。
ここまで聞いて、こうは思わないでしょうか。
地上の人間の政治劇みたく、馬鹿なことをやっているな、と!
噂や都市伝説の扱いに長けた新興勢力に惑わされ、極楽浄土だった月の都は乗っ取られた。そして、
連中は地上を「浄化」する計画に着手する。
その内実は「地上からあらゆる物を消滅させること」と「邪魔者を排除すること」であり、「一人の
狂人」に心酔した清蘭のような下っ端たちが実行している・・・。
もうお分かりでしょう。こんな感じの馬鹿な話など、外の世界なら枚挙にいとまが無い。
「一人の狂人」とはまるで、外の世界のカリスマ独裁者ではありませんか!
ここまで来てようやく、本題に入れます! 長かった・・・。
さて、ここから先は完全な推測の域です。確実性も何もありません。ただの与太話、荒唐無稽な
トンデモ話でしかありません。それでも良ければ、どうぞ読み進めて下さい。
ボスたちの言葉の中で航海長が特に気になったのは、以下の三つの言葉である、とお伝えしました。
「浄化」「一人の狂人」「ルナティック・キングダム(=狂気の王国)」
また、≪じゃあ、「一人の狂人」って誰?≫ の中で考察したように、「一人の狂人」はまるで、外の
世界で人々の熱狂的な支持を受けるカリスマ独裁者のようでした。
そして、ここまでに出てきたポイントを並べて考えてみます。
●噂や都市伝説の扱いに長けた月の都の新興勢力の有力者たる「一人の狂人」は、永琳などを「悪者」
扱いすることで人心を掌握し、月の都を乗っ取って体制を奪い取った。凄いカリスマの持ち主?
●極楽浄土だった月の都を「狂気の王国(=ルナティック・キングダム)」へと変え、地上を「浄化」
する計画に着手した。
●その内実は「地上からあらゆる物を消滅させること」と「邪魔者を排除すること」であり、その先
には「移住」「植民」が待っているかも知れない。
●あらゆる計画を実行するのは、「一人の狂人」に心酔した清蘭のような者たちである。熱狂している
ので、盲目的になり、どんな恐ろしいことでもやらかす。
●「一人の狂人」は、永琳からもらう薬を飲まなければ勝ち目のない「完全無欠」な存在で、月の都に
とっては新興勢力、つまり新参者である。
ここまで条件が揃うと、ぼんやりとしていた考えがはっきりと輪郭を帯びて来ます。
航海長は、歴史上に実在した、ある一人の男に辿り着いたのです。
外の世界にも、「完全無欠」な「一人の狂人」がいました。圧倒的な選民思想に燃え、欧州に「狂気の
王国」を創り上げ、広大な領域で民族の「浄化」を企てました。
政敵を倒すために、あいつは国家転覆を画策している、という噂を流して邪魔者を排除し、遂には国家
を乗っ取りました。
噂や都市伝説の天才的な使い手で、人心掌握術は人類の歴史に名を残すほど。彼に心酔した者は、狂気
に陥っているためどんな恐ろしいことでもやらかしました。
大きな戦争の終盤、自殺したと言われていたものの、都市伝説の中では、南米もしくは月に逃げたと
さえ噂されたその人物。月に逃げたとすれば、月の都にとっては新参者と呼べる存在・・・。
そう。都市伝説によって独裁者に上り詰め、都市伝説の中で今も生き続けるあの男。
アドルフ・ヒトラーです。